小説の書き方

物語の第2文法「難題を解決する物語」幼児心理学の研究より

物語の基礎文法第2回「難題を解決する」物語の深掘り記事です。

もし前々回と前回の記事をすっとばした方がいらっしゃいましたら、まずはそちらの記事から読むことをおすすめします。

前々回 小説の書き方のルール|初心者でも10分であらすじが書ける!本も紹介

前 回 物語の第1文法「行って帰る物語」トールキンの哲学|児童文学の現場より

物語の3つの基礎文法

  1. 行って帰る
  2. 難題を解決する
  3. 欠如が回復する

作品の地図とも言えるあらすじを書くための、基本の「キ」の字の基礎文法2つ目です。

ここを外したら、あらすじすらまともに書けませんから、小説家をめざすあなたは絶対に押さえておかなければならないポイントです。

前後記事と併せて腑に落ちるまで何回でもくり返し読んでくださいませ。

さて、前回、前々回の記事でご紹介した、評論家にしてマンガ原作者の大塚英志先生は、著書「物語の体操」「ストーリーメーカー」において、物語の文法の基本には2つのパターンがあるとして、①行って帰る③欠如が回復するを紹介しています。

ですが、あえてダイナレイは「難題を解決する」パターンを付け加えました。

なぜかと言えば、「物語の構造」の基礎パターン(別記事にて詳細は解説)に、この「難題を解決する」文法は必ずと言っていいほど組み込まれているからです。

魔法民話にも英雄神話にも構造的に必ず「難題を解決する」文法は入ってます。

ほとんどあらゆる物語に「難題を解決する」文法は入っていると言っても過言ではないくらいです。それくらい普遍的な物語文法なのです。

なので今回は、「難題を解決する」文法が物語に占める重要性を幼児心理学の研究から紐解いていきたいと思います。

 今日のトピックス

  • 「物語る」ことは、「いま」「ここ」を越えること
  • 物語を成り立たせる技法「難題を解決する」物語

「物語る」ことは「いま」「ここ」を越えること

今回の記事に書くにあたり、参考にしたのは、幼児心理学の教科書「幼児心理学への招待[改訂版]子どもの世界づくり」内田伸子(サイエンス社・2008)です。

人は、ことばに出さず心の中で、「いま」「ここ」を越える。また、会話や報告の中でも「いま」「ここ」を越えることがある。これは、広い意味で「物語る」という行為なのである。物語るということは知識や経験をもとにして新しい表現を創造する営みの典型的なものである。  「幼児心理学への招待[改訂版]子どもの世界づくり」内田伸子(サイエンス社・2008)

驚いたことに、幼児心理学の研究によると、人は物語ることによって様々な機能を発達させているというのです。

物語ることは子どもの成長において重要な働きをしていて、いわば成長を促すための実戦訓練でもあるのです。

つまりですね、簡単に言ってしまうと、誰だって大人になる過程で物語る能力は身につけている!ということなんです。

しかも、およそ4歳の後半~5歳の前半には、「難題を解決する」「欠如を回復する」物語を創作することができるようになります。

5歳の後半にもなると、いわゆる「夢オチ」「回想シーン」などの組み込み技法を使ったファンタジーが生成できるようになります。

5歳後半でですよ!

その上、客観視もできるようになってくるので、聞き手の反応話の一貫性を気にするようにさえなります。

この頃にはお話をつくる過程を意識して、まとまりある物語をつくろうと制御し始めるんです。

このように物語る力は5歳後半で、認知的能力の発達と呼応して爆発的に伸びます。

つまり、これを読んでいるあなたは、物語る力を確実に持っています。

なのに「小説が書けない」なんて言っているとしたら、それはただ単にトレーニング不足なだけですw

物語を成り立たせる技法「難題を解決する」物語

ズバッと結論から言います。

「難題を解決する」文法は、物語を成立させる典型的な技法です。

これはですね、アレコレ理由付けする前に、実例を見るのがいちばんですね。

M.T.ちゃん5歳10ヶ月の女の子が遊びで創った物語の例です。

タイトルは「星を空に返す方法」 ←すごい!そのものズバリ!超難題!!

あらすじ:うさぎの誕生会で、森の動物たちが集まって食事をしていました。するとケーキの陰から星が出てきました。星が「空に返してほしい」と言うので、まず最初に象が鼻に入れて星を飛ばしました。途中で落ちました。みんなで相談しました。うさぎが長い笹を伸ばして空まで送ってあげようと言い、みんな「そうしよう」と笹をとってきました。中でもネズミが一番長い笹を持ってきました。その笹に星をのせて土の中に1日埋めると、笹がぐんぐん伸びて星を空に返してあげることができました。誕生日のあと、空のキラキラ光ってる星を、みんな落ちてきた星だと思ったのです。

シンプルかつ子どもらしいファンタジーですね。

星を空に返してあげる方法がまたイケてます。

解決の試みが3度くり返されるのもポイントです。

  1. 象の試み
  2. みんなで相談
  3. ネズミのお手柄

この3度のくり返しは、洋の東西を問わず童話や昔話でお馴染みの、形式的な安定感を与える物語技法です。

「桃太郎」が定番ですね。イヌ、サル、キジにきびだんごをあげる儀式です。3度くり返されますよね。

それにしてもすごくないですか? 5歳児ですよ!

教科書には紙面の都合か一例しか載っていませんでしたが、当然、この女の子だけが特別な文才の持ち主なのではありません。

5歳後半以降に、どの子も物語れるようになるのです。

そして「難題を解決する」文法が、物語る時の基本形式として自然に幼い子どもに採用されているのです。

なぜって、もちろん、物語として成立させやすい形式だからですね。

想像してみてください。幼い子の1日を。

子どもにとって現実世界は問題の山積みです。

子どもの1日は毎朝起きてから夜眠るまで問題解決にチャレンジしまくっていると言っていいと思います。

  • どういうふうにこのブロックを組み立てたら、わたしのお気に入りのおうちになるのかな?
  • どうしたらあの子からおもちゃを取り返せるのかな?
  • どうしたら○○ちゃんと仲良く遊べるのかな?

なんてことを常に考えながら過ごしていると思いますよw

もちろん、子どもが母親に読み聞かせられている絵本の影響もあります。

だとしても、絵本の物語文法をしっかり自分のモノにしていなければ、自分が創作するときに適切に使用することができません。

少なくとも、「難題を解決する」文法は5歳の子どもが自分のモノとして自在に使える基礎文法だということです。

何より、子どもが好きなお話の形式であるのです。

お気に入りなのです。

あなたも、名探偵コナンは好きではないですか?

映画ミッション・インポッシブルはシリーズ通して見てたりしませんか?

たとえ興味がなくても、うっかり冒頭を観てしまったら最後、問題が解決するまで観ないと気が済みませんよね。

問題を出されるとあなたの脳は無意識のうちに解決しようとします。

答えが出るまでいつまでも考えつづけるという習性が脳にはあります。(大脳生理学より)

やめようと思っても考えるのをやめられないんです。

ゆえに、「難題を解決する」文法はとても生理的な機能に適った形式でもあるわけです。

まとめ

さて、いかがでしたでしょうか。

人の生理に根ざした物語技法として「難題を解決する」文法があるんだなって、わかっていただけたでしょうか?

5歳の幼い子どもでも巧みに物語の技法を駆使して創作します。

あなたにできないわけがありません。

ちなみに、今回ご紹介した「星を空に返す方法」は、星の視点から見れば「行って帰る」物語ですし、森の動物たちから見れば、「欠如が回復する」物語でもあります。

星というのは本来夜空にあるもので、そこから落ちてきて欠けてしまったものを、みんなで力を合わせて再び空に戻して回復したと見なすことができます。

5歳の女の子が遊びで創った物語が、自然に物語の基礎文法を3つとも使いこなしています。

あなたにもできます。

物語ることは人間の生理作用なのです。

それでは、物語の基礎文法第2回はこれにて終了。

最後までお読みくださりありがとうございました~!

次回、物語の基礎文法第3回「欠如を回復する」物語の深掘り記事につづきます。