近ごろ技術論ばかりに偏っている気がするダイナレイラボですので、今回は小説家になるためのマインドセットをご紹介していきたいと思います。
小説家志望者のマインドセットと言ったら、コレしかない!ってくらい、20年経ったいまでも真っ先に思い浮ぶ金科玉条です。
「小説家になるために 荻野目悠樹 本気で作家になりたい人に贈る 信念の二十五ヶ条!!」
※出典元の記事ページデザインが微妙なため、引用でも表記揺れ等がありますがご容赦ください。
出典元はおよそ20年前(古!)の1998年に出版された知る人ぞ知る別冊ぱふ小説特集号です。
推理小説家の有栖川有栖先生のロングインタビューに惹かれて買った1冊ですが、福袋的に役立つ記事が多かったですね。
これ、いまだに所持している人はそう多くないと思います。(勝手な憶測ですが、何しろ20年前の雑誌ですのでw)
ちょっと厳しめの金言ですが、これが現実と肝に銘じた方がいいのであえての引用です。
確かに「誰でも小説は書ける!」し、一時的なら「誰でも小説家になれる!」っていうのがダイナレイラボのコンセプトですが、だからといって「誰でも小説家として食べていけるワケではないよ!」ということは早めにお知らせしておくべきだと思いました。
もちろん、それくらいは知ってるよ!って言われそうですが、東大に合格するよりも大企業に就職するよりも大変だよ!ってことは案外わかっていない人が多いと思います。
そのために、この金科玉条はとても役に立つのです。
ぜひ最後まで目を通してください。
安易な気持ちで小説家をめざすと痛い目みますから……。(経験者は語る)
レア情報ですよん。
本気で作家になりたい人に贈る 荻野目悠樹 信念の二十五ヶ条!!
もしかしたらあなたは荻野目悠樹先生をご存じないかも?しれませんので、簡単に荻野目先生のバックグラウンドをご紹介しますね。
1996年に「シインの毒」で集英社ロマン大賞を受賞して集英社スーパーファンタジー文庫でデビューしています。(同年コバルト文庫でも執筆)
その後の執筆作品は多岐にわたるので、ググってくださいませ。(正直作品自体はここではどうでもよいのでw)
荻野目先生が小説家を志したのは大学卒業後です。(横浜市立大学商学部卒業)
もともとはマンガ家志望だったのに、マンガは労力に対して自分の考えを表せる情報量が少ないとの理由で、小説家志望に転向します。
どうやら社会人になって、物理的にマンガを描く時間がなくなってしまったのが主な原因のようです。小説の方が時間的に可能だったと。
(誰も興味ないと思うけど、ダイナレイもこの口ですw 中学生の時に転向しました)
なので、社会人になってから文章の勉強をはじめたのだそうです。
その後、以下の「荻野目悠樹信念の二十五ヶ条ッ!!」ができあがったワケですね。
荻野目悠樹信念の二十五ヶ条ッ!!
一、数撃ちゃ当たる
二、天才は勝手に書け
三、努力と根性
四、受験のほうが楽だぞ
五、大学に入るより難しい
六、就職よりもっと難しい
七、読んで読んで読みまくれ
八、勉強しよう
九、怖いもの知らずは一か八か
十、受賞には戦略をたてろ
十一、つかみはOK
十二、オチには血を流せ(血管を切ろう)
十三、こだわりネタ(ジャンル)を捨てろ(好きなものはプロになってから書け)
十四、小説として食えるか
十五、食えても美味いか
十六、いつも禅問答だ(客観的に読んで己の小説は面白いのか?)
十七、声をだして読んでみろ(笑っちゃうぞ)
十八、差別化戦略だ
十九、面白い小説の骨格は美しい
二十、エンターテイメントは技術(テクニック)だ
二十一、小説にも基礎技術がある(ただ書きゃいいってもんじゃない)
(マンガで言えばフキダシや擬音やコマ割のことだ)
二十二、面白さの方法論を持っているか
二十三、エンターテイメントは構造主義(レヴィ・ストロース)だ
二十四、キャラクターが人間になるかアニメキャラになるかの境目がある
二十五、自分の作品に芸はあるか
「別冊ぱふ 活字倶楽部’98冬号」(雑草社・1998)
いかがですか?
なかなか胸に突き刺さる金言ばかりですよねw
これだけでは意味不明な金言もありますので、以下で詳しく見ていきましょう。
荻野目悠樹信念の二十五ヶ条!! インタビュー記事を簡略解説!
この「荻野目悠樹信念の二十五ヶ条!!」は先生へのインタビュー記事の中の一部分なので、ほとんどご自身の言葉で説明してくださっています。
ですが、すべてを引用するととんでもなく長くなってしまいますし、余計わかりづらくなってしまうので、不肖ダイナレイが簡略化してお伝えします。
第一条 数撃ちゃ当たる
なぜ集英社ロマン大賞に投稿したのかインタビュアーが尋ねたところ、「数撃ちゃ当たる」と返ってきたわけですね。
想定外もいいとこですw
荻野目先生は片っ端から文学賞に作品を送ったそうで、たまたま当たったのがロマン大賞だったわけです。
だから、「小説書いたら片っ端から送れ」というのが第一条の意味するところです。
※ただし、同一作品を複数の賞に応募することは二重投稿となり、作家生命を絶たれてしまうので、必ず賞ごとに対策を立てて違う作品を投稿しましょう。
第二条 天才は勝手に書け
これはそのまんまですw
すらすら楽しく書けちゃう天才みたいな人は勝手に書けばいい!っていうやっかみですw
先生の経験上、この天才系作家が業界にはうじゃうじゃいるそうです……
(大抵の編集部はこの天才系作家を求めてます……泣)
第三条 努力と根性
天才じゃないなら才能の不足を努力と根性で補いましょうとのこと。
老婆心ながら、ダイナレイがアドバイスすべきことは一つ。
「努力不要論」を読むべし!
東大卒の脳科学者、さんまのホンマでっか!?TVでもお馴染みの中野信子先生の著書(フォレスト出版・2014)です。
「努力不要論」は人生の初期段階で万人が読むべき本だと思います。
がんばっても報われない事態に陥らないように。
まだあなたが読んでいないら、小説家修業をする前にぜひとも読んでください。
ちなみに、この本のキャッチコピーは「努力したら負け。」 ←読まなきゃ損だよ!
第四条 受験の方が楽だぞ
投稿を重ねている人へのアドバイスですね。受験の方が楽だぞ、と。
倍率からいえば新人賞を受賞する方が断然高倍率なんです。
例えば、当時のノベル大賞は2000本の応募作の中から大賞受賞は1作品。
要するに倍率は2000倍!
大学はせいぜい2倍ですから、1000倍も楽!ですね。
20年経った現在は、そんなに応募数はないですが、少ない文学賞でも100本くらいはあるはずなので、倍率は100倍。
大学の倍率が2倍と高めの設定で考えても、50倍は楽!ですね。
第五条 大学に入るより難しい
第四条を踏まえて、とりあえず大学に入っておきなさい!というアドバイスです。
小説家になるのは大学生になるより50倍は難しい。
それなら、まずは簡単な方から攻略すべし、ということですね。
知は小説家の武器ですから、損にはなりません。
第六条 就職よりもっと難しい
第四条、第五条で考察したことを踏まえて、人材不足のこの時代、圧倒的に就職する方が楽です。
例えば、今は工業高校には卒業生1人に対して6社も求人があるという、超売り手市場です。
なので、何年かかるかわからない投稿生活の基盤づくりのため、まずは定職について生計を確保しましょう。
そもそも作家の大半は兼業ですよ。
印税収入だけで生計が成り立つ作家は、国内では300人程度と言われています。
ごく少人数ですね。
しかも、仮にデビューできてもその後の生存率は0.2%(500人に1人)ですから、たかだか新人賞を受賞したくらいで仕事を辞めてしまうと、後々大変です。
なので、とりあえず就職しておきましょう、とのアドバイスです。
第七条 読んで読んで読みまくれ
作家を目指すなら読むことが最低条件とのこと。
そりゃそうですよね。
読まないで書けるのは、天才だけです。
天才じゃないなら、あらゆる本を読みまくりましょう。
第八条 勉強しよう
名作を多読して、場面転換や文章の骨格などを勉強した方がよいとのこと。
ダイナレイの記事にもちょいちょい書きましたが、文章力というものはほとんどが、学力と言って差し支えない分野です。
だから、天才以外は勉強しましょう。
第九条 怖いもの知らずは一か八か
多読して知識のある作家さんは、他人の作品とネタが被ってしまったら、そのネタは書けません。
その点、まったく知らないど素人は、怖いもの知らずで書いてしまえる。
一般読者の投票で決まる賞だと、プロの審査員からは古くて不評でも、読書体験の少ない読者からは新鮮で高評価を得て受賞できてしまうこともあるんです。
なので、怖いもの知らずで一か八かで投稿してみるのもあり。
だけど、この場合、まず次作品に繋がらず消えてしまいます。
なので、ここを狙ったら一発屋で終わることは覚悟しましょう。
※ダイナレイはおすすめできません。
第十条 受賞には戦略をたてろ
一発屋では意味がないので、知恵を絞って戦略をたてましょう。
まずは自分の書きたいジャンルを研究して、すでに人が書いたものは捨てること。
第十八条「差別化戦略だ」も関連してくるので、そちらも合わせて考えてみてください。
第十一条 つかみはOK
内容に関しては最初の5枚が勝負。
最初の5枚で期待感を持ってもらえれば、最後まで読んでもらえる。
投稿作の多い賞は、最初に審査員の気を引かないとスゴいオチがあってもそこまで読んでもらえない。
エンターテイメントは最初から面白くないと、とのことです。
第十二条 オチには血を流せ(血管を切ろう)
長編の最後がきれいにオチないと感動がなくなってしまう。
血を流すほどオチは考よう。
第十三条 こだわりネタ(ジャンル)を捨てろ(好きなものはプロになってから書け)
第十八条「差別化戦略だ」に繋がるんですが、自分の好きなジャンルにこだわると、他の応募作と内容が被りやすいです。
新人に求められるのは新しいものなので、自分の好きなジャンルにこだわりすぎると目立たず、結果落選します。
なので、まずはこだわりネタを捨てて勝てるジャンルを狙えということですね。
第十四条 小説として食えるか
小説を料理に例えて「食えるかどうか」を言っています。
ストーリーや言葉の使い方、場面転換の仕方など、違和感を感じずに最初から最後まで読めるかどうか、ということですね。
一次選考を抜けられるかどうかの境目です。
自分で読み直してもわからない場合は、友人などに読んでもらいましょう。
第十五条 食えても美味いか
第十四条のつづきで、二次三次選考を突破できるかどうかということですが、他人より美味しい作品でないと入賞はできません。
読んでくれる友人も唸らせるくらい面白いものを書きましょう。
第十六条 いつも禅問答だ(客観的に読んで己の小説は面白いのか?)
常に恐怖感を抱えて書いているそうです。
荻野目先生に限らず、このような恐怖感を感じている作家さんは多いですね。
自分の書いた作品は本当に面白いのか。
そうやって問いかけながら一作一作自分と向き合って真摯に書いていく姿勢が大事なんですね。
第十七条 声を出して読んでみろ(笑っちゃうぞ)
自分の作品を声に出して読むと笑っちゃうところが絶対にあるから、そこは直しましょうってことです。
せめて友だちに読まれても恥ずかしくないものを書こう!ですって。
第十八条 差別化戦略だ
何で差別化戦略が第十八条なのか、第十一条でいいんじゃないかとこの記事書きながら思っていますが、第十条「受賞には戦略をたてろ」や第十三条「こだわりネタ(ジャンル)は捨てろ」でも書いたとおり、他の作品との差別化が重要です。
新人賞を受賞するためには、たくさんの応募作の中で目立たないといけないんです。
人がやらないことをやった方が断然お得です。
目立ちますから。
新人に求められるのは、新しいものなんですよ。
既存のアイデアなら既存の作家が書けばいいんですから、わざわざお金と労力を掛けて新人作家を発掘する意味はないんですよ。
だから、第七条「読んで読んで読みまくれ」というのはここにも関係しているのですが、読めば読むほど書いてはいけないものがたくさんあることに気づくんですよ。
既存作品と内容が被ったら新人作家はアウトなんです。
下手すると盗作疑惑にまみれて、例の美人過ぎる芥川賞候補作家のようなことになりかねません。
第十九条 面白い小説の骨格は美しい
荻野目先生はハリウッド映画のシナリオを例に挙げています。
ハリウッド映画のプロット表を見ると仕組みがしっかりしているから見た目が綺麗なんですね。
第二十条 エンターテイメントは技術(テクニック)だ
技術に関してはアメリカのシナリオ創作教室の教科書がとても役立ったそうです。
伏線の張り方、キャラクターの描き方などがキッチリ書いてあると。
また、栗本薫先生の「小説道場」、久美沙織先生の「新人賞の獲り方教えます」を勧めています。
もちろんダイナレイはどちらも既読ですが、栗本薫先生の「小説道場」は腐女子向けなので、BLに免疫のある方だけお読みくださいw
久美沙織先生の「新人賞の獲り方教えます」は、まったくの初心者さんには良書です。
初心者が躓きやすいポイントをわかりやすく教えてくれますよ。
この本ではじめてダイナレイは「描写するとはこういうことか!」と心の底から納得しましたw
ちなみに、続編も出ていますので、併せて読むといいです。
なんなら、「続 新人賞の獲り方教えます」だけでもいいと思います。
普段本を読み慣れてない方でも、非常に読みやすい本です。
第二十一条 小説にも基礎技術がある(ただ書きゃいいってもんじゃない)(マンガで言えばフキダシや擬音やコマ割のことだ)
マンガ家志望の人はコマ割などの技術をちゃんと知っているのに、小説だと技術が見えづらいので勉強できていない人が多いということですね。
ダイナレイラボをブックマークして、隅から隅まで何回でも読みましょうw
第二十二条 面白さの方法論を持っているか
シナリオ論には面白くなる方法というのがあります。
あと、戯曲のドラマトゥルギー論も。
自分なりに研究して自分なりの方法論を確立しましょう。
第二十三条 エンターテイメントは構造主義(レヴィ・ストロース)だ
以前のダイナレイの記事でも書きましたが、ハリウッド映画では何分までにこれを起こせというノルマ表があります。
その元になったのが構造主義ですね。
構造がしっかりしているものは面白いのです。
第二十四条 キャラクターが人間になるかアニメキャラになるかの境目がある
ライトノベル系ではアニメキャラの方が断然読者受けがいいのですが、こと新人賞においては生身の人間として書かなければなりません。
要するに審査員受けですねw
第二十五条 自分の作品に芸はあるか
柴田錬三郎先生の言葉に「作中におみやげを置け」というのがあって、本筋とは別にちょっとしたオマケ情報を入れておくと読者は満足するよということです。
まとめ
思った以上に長い道のりでしたね。
息が切れてしまいました。ゼーハー。
ホント言うと二十五ヶ条も要らないというのがダイナレイの本音ですが、(まとめられる項目がいくつかありました)荻野目悠樹先生の小説に懸ける熱い情熱を少しでも感じ取ってもらえたらいいなぁと思いまして、ちょっと長いですがそのままご紹介しました。
20年前の古い雑誌のインタビュー記事ですので、こうやってネットに上げない限り二度と顧みられない情報なんじゃないかなと思いました。
最後まで読んでくださったあなたに少しでも作家の情熱というものが伝わったなら、こんなにうれしいことはありません。
お読みくださり、ありがとうございました!
それでは、また次の記事でお会いしましょう。
ダイナレイ