文章読本ラボ

ワセダ大学小説教室2三田誠広|深くておいしい小説の書き方

前回記事「ワセダ大学小説教室1天気の好い日は小説を書こう」の続編になりますので、未読の方はぜひ先に前回記事を読んでくださいませね。

さて、「ワセダ大学小説教室2」とタイトルに「2」と番号入れたとおり、ワセダ大学小説教室全3部作の第2作目になります。

前作同様、全6回分の講義が収められています。

前著が「小説の書き方の基礎の基礎の基礎」で「誰でも小説が書ける」と言った感じだったのに対して、今著はその上級篇に当たりまして、「誰でも書けるような小説を書いてもしようがない」というところからお話が始まります。

なので、今回はかなりスパルタな内容ですw

純文学の新人賞に応募して小説家になりたい!という人は必須の情報が盛りだくさんなので、ぜひ一読ください。

これを知っているか否かで結果は決まってしまうと言ってもいいくらいの内容になっています。

知らないで新人賞にチャレンジすると、高確率で落選します。

それは技術的な問題よりも、テーマの問題です。

本著で三田先生は物語構造を主軸に解説してくれていますが、それについてはこのブログでも十分理解できますので、それよりもあなたに注目してほしいのは、

「時代を変えるような新しい小説が書けないだろうか」

っていう、壮大な心構えの部分です。

作品の深い味わいを織りなす部分ですね。

ここが本書の独自テーマです。

なので、純文学系の新人賞を狙っているあなたには必読の書ですよ~。

これを知らないで書いたらヤバイです。

この記事を読んで納得したら、ぜひ本書を実際に手にとって隅から隅まで読んでご活用くださいね。

人間は二種類しかない。バカか、変態か(笑)

 この世の中には、二種類の人間がいます。

「小説を書く人」と「小説を書かない人」の二種類です。

教室で講義をする時には、私は前者を「ヘンタイ(変態)」、後者を「単なるバカ」と呼んでいます。

(中略)これは明らかなことですが、「普通の人」に「小説」は書けないのです。ですから私は声を高めて、「勇気を出してヘンタイになろう」と学生たちを励ましています。

この本の読者の皆さんにも、同じことを言いたいと思います。日常性から一歩ぬけだして、「ヘンタイ」の領域に踏み込んでください。それが出発点です。

「ワセダ大学小説教室 深くておいしい小説の書き方」三田誠広(集英社文庫・2000)

冒頭からすでにかっ飛ばしてますねw

誤解しないでほしいのですが、ここで「小説を書かない人」を教室では「単なるバカ」と呼んでいますが、「普通の人」をバカにしているわけではないということですね。

ヘンタイの領域に一歩踏み出さなくてはならない学生たちを励ます意味で、「普通の人」なんていない、「単なるバカ」がいるだけだ、と誇張していっているのです。

普通をはずれてヘンタイになるのは勇気が要るからですね。

作り手の側に立つなら平凡なパターンを超えないといけない。

ユニークでないといけない。

だから読者にも勇気を出して「ヘンタイ」になろうと呼びかけているのですw

小説は変態を育てる「思考実験」である

「小説とは何か」という非常に大きなテーマから第1回講義は始まるんですが、三田先生は「一種の思考実験だ」と言っています。

それにはダイナレイも大賛成ですが、小タイトルにある「変態を育てる」は余計ですw

とにかく三田先生は「変態」がお好きみたいで(笑)しきりと変態になることをすすめてきます。

要するに、平凡なままでは小説は書けないということを伝えたいのでしょう。

でも、あんまり変態を強調しないでほしいですねw

普通の人は引いてしまいますから……。

さて、三田先生は小説は思考実験だと定義した上で、小説の持っている力について考察していきます。

例えば、現代の人間がなぜ「恋愛」をするのかという問題提起があるのですが、実はわたしたちがもっている「恋愛」のイメージは近代小説が作り出したイメージなんですね。

それまでは「恋愛」という概念そのものが存在しなかった。

ですから、「恋愛」というのはそもそも幻想で、なくたって生きていけるものです。

けれども、くり返し小説に書かれたことで「恋愛」という概念が定着して、いつの間にか「恋愛」して「結婚」するのがあたりまえみたいな風潮になりました。

ちょっと前まで結婚はお見合いで決めるのが普通でしたし、そもそも「結婚」という制度は家と家とを繋ぐ機能がメインであったはずなんですが、現代では完全に個人をつなぐ制度になってしまいました。

小説の力恐るべし、ですね。

でも、だからこそ小説にはまだ見ぬ可能性があるんです。

一個人の小説が、時代の流れをつくり出せるかもしれない。

これって、スゴくないですか?

ワクワクしませんか?

思考実験には現実の壁を越えた無限の可能性がありまっせ~。

「おいしさ」の決め手十ヶ条

どうやら作家という人種は「○○の○ヶ条」という信念を箇条書きにする手法が大好きみたいですねw

すでにダイナレイラボでも荻野目悠樹先生の信念の二十五ヶ条!!をご紹介済みですが、三田先生も最終回「新人賞応募のコツと諸注意」で「おいしさ」の決め手十ヶ条というのを列挙しています。

「おいしさ」の決め手十ヶ条

  1. 文章が読みやすい
  2. 興味を惹くプロットをテンポよく展開する
  3. シチュエーションをわかりやすく示す
  4. 魅力的なテーマを早い段階で示す
  5. 主人公および主要登場人物の魅力的なキャラクター
  6. ストーリーの謎めいた展開とサスペンス
  7. イメージ豊かな描写――人物の表情と風景
  8. 細部のリアリティーと臨場感
  9. ユーモア・ウィット・ギャグ
  10. 「深さ」への予感

こうしてみると、まあ、どの作家・編集者も表現は違えど言ってることはみな同じなのですね。

つまり、小説を構成する要素って決まっているんです。

なので、端から順番に攻略していけば、おいしい小説を書くことは難しくはないです。

もちろん、ちゃんと理論とマニュアル(テンプレ)を勉強して使える技術として日々トレーニングを積めば、のお話ですが。

どうやったら新人賞がとれるか

答えは簡単です。

「深くておいしい小説」を書けばいいのです。

って、三田先生はおっしゃってますw

だから、この本を読め!ってことですね。

そしてその中で特に重要なのが、テーマを練り上げるってことですね。

純文学系の新人賞をとるのに必要なのは、ストーリーそのものよりも、「現代」をどう描くかなんです。

ストーリーの面白さはもはや評価の基準にはならないんです。

だって、物語構造はみんな一緒なんですから。

そこをどう差別化するかといったら、「いま」をどう描くか、ココしかないんです。

「いま」を正確にとらえると同時に、立体感と存在感のある「人間」を描ききれるかどうか。

そこが作品の価値を決めるのです。

まとめ

小説にとって最も重要なことは、時代状況に合わせたテーマの設定と、それに相応しい文体の確立です。

おいしい小説を書くには、感性だけではダメで。

深さを究めるには、歴史理論が必要です。

というわけで、3作目は「書く前に読もう超明解文学史」と銘打って、戦後50年の日本文学をざっくり振り返る読めば元気が出る日本文学史!(本人談)になっています。

読むべしw

次回記事ではダイナレイも復習を兼ねて文学史一覧を掲載したいと思います。

(およそ8年前にYahoo!ブログに掲載していたモノです。)

これを見たら、今何を書けばいいのかが明解にわかります。

本気で小説家をめざす諸氏には必読の書です。

ジャンルにかかわらずですよ~。

(むしろライトノベル指向の人にこそ読んでほしいかな)

ダイナレイはこの第3作を読んだおかげで文学というモノをようやく理解することができました。

時代という捉えがたい流れもね~。

ということで、つづきます。