小説の書き方

物語の第3文法「欠如を回復する」物語|英雄神話の共通構造

物語の基礎文法第3回「欠如を回復する」物語の深掘り記事です。

第1回と第2回をまだ読んでいない方は、つづきモノなので先にそちらを読むことをおすすめします。

あわせて読みたい
物語の第1文法「行って帰る物語」トールキンの哲学|児童文学の現場より前回記事でご紹介した「物語の基礎文法」についての深掘り記事です。 前回サラッと3つの基礎文法をご紹介しましたが、本当は狭くて奥深い...
あわせて読みたい
物語の第2文法「難題を解決する物語」幼児心理学の研究より物語の基礎文法第2回「難題を解決する」物語の深掘り記事です。 もし前々回と前回の記事をすっとばした方がいらっしゃいましたら、まずは...

 今回のトピックス

  • 物語のもっともシンプルな構造 by アラン・ダンデス
  • 古今の英雄神話に共通の構造 by オットー・ランク

物語のもっともシンプルな構造 by アラン・ダンデス

アラン・ダンデスは米国の民俗学者で、広い分野で構造的研究を行った人物です。

世界的にはシンデレラ物語類型の研究で知られている学者です。

ダンデス先生が、プロップの31の機能(別記事で解説予定)を北米インディアンの民話に当てはめてみたところ、「欠如」と「回復」が対になって成立している民話がもっともシンプルな物語の構造だろうと考えました。

実際の民話を読んでみてください。

コロンビア川のあたりに住む種族には、目も口も無かった。彼らの食事は蝶鮫の臭いをかぐことであった。コヨーテが彼らの目と口をあけてやった。 「民話の構造 アメリカ・インディアンの民話の形態論」アラン・ダンデス著、池上嘉彦訳(大修館書店・1980)

超絶短いですねw たったの3文です。

ですが、そこに「欠如」と「回復」がある以上、これは物語である、と考えるわけです。

なぜなら、「行って帰る」「難題を解決する」と同様に、「欠如を回復する」という一つの論理構成を持った因果律がちゃんとあるからです。

物語は論理です。

必ず原因と結果があります。

因果律にシンプルに当てはまればそれは一つの文法です。

そして、前回記事で触れた幼児心理学の分野で、「難題を解決する」「欠如を回復する」文法は、物語の基本的な語りの枠組であると定義されています。

えー……っと、そろそろ説明するのも面倒になってきましたよ……

もうこれ以上説明しなくても、わかりますよね?

ですが、一応念のため、小説家は知っておくべき英雄神話のお話でダメ押ししておきましょう。

古今の英雄神話に共通の構造 by オットー・ランク

オーストリアの精神分析家であるオットー・ランクは、エディプスがらモーゼ、イエス、ヘラクレス、ジークフリートといった人物を主人公とする古今の英雄神話共通の構造を見つけました。

以下はそれをさらに簡略化したものです。

a.  英雄は王(または貴人)の血筋に連なる息子である

b.  英雄の誕生には困難がともなう

c.  予言によって、父親が子ども(英雄)の成長を恐れる

d.  子どもは、箱やかごなどに入れられて川に捨てられる

e.  子どもは動物や身分の低い人々に救われ、養われる

f.   大人になって、両親が貴い血筋であることを知る

g.  子どもは自分を捨てた父親に復讐する

h.  子どもは周囲に認知され、最高の栄誉を得る

b.  英雄の誕生には困難がともなうことを「異常誕生」といい、神話や昔話に広く共通の要素です。

「桃太郎」を思い浮かべてもらえるとよくわかると思います。

普通とはちがう生まれ方をしたために、その子は超人的な力を持つという設定です。

そして、上記のような英雄神話の構造を民俗学などでは「貴種流離譚」と呼びます。

なんとなく字面でお話の内容がわかりますよねw

別に覚えなくてもいいのですが、英雄神話の構造は時間軸を取り払った構造貴種流離譚のこと)で考えるものと、時間軸にそった物語の構造(別記事にて解説)があって、非常にまぎらわしいので名称を覚えた方が身のためです。

で、やっと本題ですが、「貴種流離譚」典型的な「欠如を回復する」物語です。

後の英雄は、彼を恐れた父親によって、その地位を奪われます(川に流される)。

最終的には父親に復讐を果たして周囲に認められ地位を回復します。

英雄神話はどれもこれも構造だけを見れば「欠如を回復する」物語です。

つまり、「欠如を回復する」物語は、人間の根源的な物語と言えます。

物語の基礎文法 まとめ

簡単にまとめると、お話の起源である民話と英雄神話は「欠如を回復する」文法でできてるんだよ!と言えます。

要するに、「欠如を回復する」は普遍的な物語文法なのですね。

以上、全3回に渡って物語の3つの基礎文法を深掘り解説して参りましたが、いかがでしたでしょうか?

物語の輪郭が掴めたでしょうか。

基礎は大事なので、ホントに大事なので、何度でも復習してくださいね。

最後にもう1回復習しておきましょう。

物語の3つの基礎文法

  1. 行って帰る
  2. 難題を解決する
  3. 欠如を回復する

耳タコならぬ眼にイカ(笑)かなと思いますが、人間はすぐ忘れるので、何度でも復讐、じゃなくて、復習してくださいw

難しいことは一つもありません。

わたしたちが子どもの頃から絵本で慣れ親しんできた物語です。

ただ、これらのことを意識したことはあなたにもないと思います。

意識するのとしないのとでは、あらすじやプロットを作成する時点で、物語る切り口のエッジに格段に差がつきますので、ぜひ折に触れての原点回帰を心掛けてくださいね。

こういう物語の文法を意識して書いている小説家は多くはないので(はっきり言って少数派ですw)、あらすじやプロットをつくる段階で大きく差をつけられます。

たとえあなたがいままで熱心な読書家でなかったとしても、小説を書くテンプレを知ってしまえば、同じスタートラインに立てます。

(物語力のお話ね。国語力はまた別ですよw)

実際、ほとんど小説を読まないで作家になった人はいます。(売れっ子作家です)

ただ、その人には戦略がありました。

自分の書いたものを客観視する力もありました。

あなたも、ぜひ自分なりの戦略を持って小説家をめざしてください。

情報はネットにいくらでも転がっています。

ダイナレイラボでも小説家をめざすあなたを全面的にバックアップするべく、随時有益な情報をアップしていきますので、今後もお楽しみに!

それでは、今回はこれにて終了。ありがとうございました~!

ダイナレイ